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書籍

やつどこどつこ第四歌集 『やつとこどつこ』

日本人のこころの深層に迫ろうと、古代幻視の旅を続ける。うたとは、そんな風土との言問いと鎮魂のなかで自ずから生まれる。時として呪文のごとく、あるいは哄笑のごとく。そして聖なる語り部のごとく。
                          ながらみ書房

ビニールの疑似餌に掛かる真鯛にてやつとこどつこで引きあげし祖父
石を抱く木の根の恋をおもひてはくをんくをんと裏山は泣く
八月の真夜にしやがめば亡母ゐて壺は最後のひとり部屋といふ
涙目のごとく湖(うみ)冷ゆ うた一首を成仏させれば虹に青濃し
びいいーんと夜気すみわたり大峰の月は謀反のやうにあかるし

現代短歌文庫106現代短歌文庫第106刊『小黒世茂歌集』

『猿女』全篇
自撰歌集『隠国』(抄)
自撰歌集『雨たたす村落』(抄)

歌論・エッセイ等を収録

砂子屋書房

  

 

熊野の森だよりエッセイ集 『熊野の森だより』

熊野に魅せられた神女の詩
自然と文化の融合した深淵の世界に迫る。
五感を駆使したフィールドワークの真髄が短歌とエッセイの一体化した新しいジャンルをきり拓いた。

 帯文 秋道智彌  本阿弥書店
 
青岸渡寺の護符一ひらこれ持ちて他界の花見にゆけ
塚本邦雄
はるか来て紀伊串本の無量寺の蘆雪(ろせつ)の春の大虎に会う
佐佐木幸綱
遠ふぶきみゆる果無山脈に暴れ羚羊棲むもうれしや
馬場あき子
戯れてをりしばかりといふごとく蛇は蛙を放ちて行きぬ
谷蟆生

ゆうらりとわれをまねける山百合の夜半の花粉に貌(かほ)塗りつぶす
前登志夫

雨たたす村落第三歌集 『雨たたす村落(むら)』

へろへろと歩く我なり
〈蝮酒きゅっとあふって峰を越えてけ〉

古代の血の騒ぐ人・カルカチュールの世界を遊泳する人。
〈聴耳〉の訴求力を発揮し、非在の存在を意識下におく特異な感受性こそ、小黒世茂の基本モチーフである。
ながらみ書房

人よりも山猿どものおほくすむ十津川郷へ尾のある人と
綿飴かい うんにや、ひとだま 石垣をふはり越ゆるはほんに美味さう
花散るを大斎原に待つもよし西行法師は膝を立てたり
夜気ふかし大蛇となりて川ゆきし熊野女をわれに語れよ

 

猿女第二歌集 『猿女(さるめ)』

小黒さんは山や森を歩く時はもちろん、街をながめるときも、仲良しの動物のまなさし、植物のまなざしで世界をながめているらしい。 そうとしか思えない独特の世界がうたわれている。本歌集のなんとも言えない不思議さがいい。
帯文 佐佐木幸綱  本阿弥書店

 

ながき影くねらせ川をのぼる蛇あるいは蛇をくだりゆく川
鮮しき猪首ささげ手をふれば〈おうよ〉と山の神はうなづく
静けさをおしひらきつつ熊野には血の花いろの朝焼けがある
たまの緒のゆるみきつたる昼下がり蕗の葉ざざつと、やがては雨か
きんぎんの光の卵産みおとす夢のうれしき海亀が来る

 

隠国第一歌集 『隠国(こもりく)』

變幻を示しつつも決して「美しい日本語」「歴史二千年の詩歌」から毫も逸脱することのない「新境地」を拓き開き、ユニークな、鎖さ れることのない「隠国」を、あるときは鎭魂歌(レクイエム)風に、あるときは物語風に、また錦繍を秘めた辻が花風に、詩歌のブランクの一領域に顯示してい る。
帯文 塚本邦雄  本阿弥書店

 

定家卿の赤銅(しやくだう)いろになめされたる顔うかびきて伏拝王子(ふしがみわうじ)
川霧は母のごとくに目に見える子も見えぬ子もふところに抱く
羊歯森の時間のそとをかけぬける役小角(えんのをづぬ)は思考する風
花婿は薄化粧する 睡蓮の絵よりこぼれ落ちたる六月
遠くへと行くから遠くよりもどる「風の伯爵夫人」と呼ぶ雲
© 2009 Yomo Oguro